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 部屋に入るなり、当然のように隼人は、
「脱げよ」
 と、口にした。
 数馬は凍てついた目で、ジロッと隼人を睨みつけた。
「お前とやる理由がない。ただ……それが頼みだっていうなら、一度だけは聞いてやる」
「頼みだと? 笑わせんなよ。どっちの立場が上だと思ってんだ?」
「取引に、上も下もないだろ」
「取引ねェ……ま、そーいうことになんのかなァ。じゃあ、俺の希望を言おうか。今夜一晩、また命令聞いてくんねーかな」
 隼人は数馬の肩に手を回した。そのまま乱暴に引き寄せ、二人で倒れ込むようにソファに腰を下ろす。
 シャンデリアの照明は、数馬が以前来た時ほどには明るくなかった。部屋全体が薄暗い光で照らされている。部屋の中央にあったはずのローテーブルは壁際に押し付けられており、ソファの前には広い空間が広がっていた。
「一晩、お前の奴隷になれと……?」
 エアコンから吹いてくる冷気が、数馬の長い髪を揺らした。
「頼むよ。俺、こないだお前が帰った後、オナッちまったのよ。すげー興奮したぜ。最近、女抱いてもつまんなくてよ。あの刺激、ナマで味わいてーんだよなァ」
「借りは返す。そのかわり、今夜だけだ。約束は…、守れよ」
「もちろん。あの時の借りを返してもらうだけさ。それで、あの日のことはすべてチャラ……ってことで、いいんだろ?」
「ああ」
 数馬はしっかりと頷いた。
 クルーネックの襟に手を掛けて七部袖のカットソーを脱ぎ、無造作に床に放り投げた。間を置かず、要領よくすべての衣類を脱ぎ捨てる。
 部屋の中で、数馬だけが全裸となった。隼人はその横で、痛快そうに目を輝かせていた。
「床に降りろよ。あっち向いて、両手を後ろに回せ」
「縛る必要があるのか? 俺は抵抗なんて…」
「口答えすんなよ。お前の体を一晩どう扱おうと、俺の勝手なはずだろ?」
「……」
 チッ、と数馬は舌打ちした。そのまま言われたとおりにソファから降り、隼人に背を向けたまま、両手を後ろに持っていった。
 グイッと両手首を掴まれ、強引に引っ張られる。束ねられた腕が、袋のようなものに押し込まれた。アームザックと呼ばれる黒革の拘束具だった。両肘がぴんと伸びたまま、紐がきつく絞られていく。体の前にベルトが回され、袋が抜けてしまわないように固定されて、グッと締め上げられた。
「相変わらず、体柔らけーな。普通は、こんなにきつくできねーのに」
「ぐっ…うぅ……」
 調子に乗って隼人はベルトを締め上げる。両腕の付け根が軋むような感覚に、数馬は歯を食いしばった。上腕部から指先までがすっかり革に包まれ、軽く動かすことさえ困難になっていた。
「よし、いいぞ。こっち向きな」
 数馬は体ごと背後に向き直った。
 すでに隼人は座ったまま足を開き、ファスナーを下ろしている。数馬の髪を一束握って引っ張り、頭を股間に近づけようとした。
 抵抗することなく、数馬は自ら局部に顔を持っていった。むせかえるような雄の匂いが鼻をつく。眉間に皺を寄せながら、数馬は舌を伸ばし、すくい上げるように先端部分をペロッと舐めた。
「ふぅ……」
 隼人が軽い吐息を漏らした。
 裏筋を舌の表面で擦るようにしながら、切っ先を口に含む。唇を動かしつつ顔を傾け、満遍なく唾液を亀頭にまぶしつけた。ピチャピチャという淫らな音が、静かな部屋に響く。
「んむっ…ん、う……」
 僅かに声を絞り出しつつ、数馬は執拗に舌を動かした。熱い男根はみるみるうちに大きくなり、開いている口を更に大きく広げた。
 不意に頭を掴まれて、顔が前に引き寄せられた。奥まで飲み込め、という無言の指示だった。諦めて数馬は、根元までを口の中に送り込んだ。
 隼人の肉棒は、亀頭が特に大振りだった。力強く膨張して、大きく傘が張っている。
「すげ…、たまんね……ぇ…」
 恍惚とした表情で、隼人は数馬の前髪を手櫛で梳くように持ち上げた。額を出して、もっと顔を見たいという意志の表れのようだった。
 数馬はすぼめた唇で、カリ首を重点的に愛撫した。同時に円を描くように、舌先を激しく動かす。先端の溝を上顎や、頬の内側に押し付けたりもした。
「んくぅ……んっ、ふむっ、……くっ、くふっ…」
 何も考えない。そう数馬は自分に言い聞かせた。今夜はプライドを捨て、恥に耐えるつもりだった。これは取引なのだ。
 フェラチオだけで済むとは思っていなかったが、命令には従う必要があった。両腕を拘束されたまま、数馬は舌と唇をうまく使い、目の前の肉塊をしゃぶり上げた。
 ふと、頭の奥がじんと痺れたような気がした。記憶の扉が少しずつ開いていく。
『いい子だ、アルブレヒト。だいぶ上手くなったじゃないか』
「……っ!」
 自分の中の思いがけない変化に、数馬はきつく目を閉じた。思い出してはいけない出来事だった。あの数年間は封印したはずだ。
 何年もの間、毎日……。自分を待ち構えていたのは、男のペニスだった。それを口に入れなければ、食事を与えられなかった。誰も助けてはくれる者はいなかった。日々の糧を得るためには、従うしかない。生き延びるために、どんなことでもするしかなかった。それが家の中でのルールだった。
「うまいな、数馬……、お前、フェラするために生まれてきたんじゃね?」
『アルブレヒト、これぐらいしかお前に価値はないんだ』
 隼人の言葉が、脳内で置き換わってしまう。数馬の心を不安が苛んだ。ドキドキと心臓が早鐘を打つ。パニック発作の危険性が、すぐそこまで迫ってきていた。
「どうしたんだよ? 急に……サボッてねーで、しっかりやれよな」
 舌の動きが鈍くなった数馬を叱責するように、隼人は両手で彼の頭を挟み込むと、強引に前後に振り始めた。
「んっ、んぐっ! んは……かはっ、あぁっ……」
 ジュプッ、ジュプッという液体音と共に、赤黒い肉棒が見え隠れした。数馬の喉の奥を犯しながら、唾液にまみれて卑猥に光っている。
 息苦しさと嘔吐感が数馬を襲い、長い時間責め立てた。口腔を巨根が往復する度に、忘れていた記憶が一つずつフラッシュバックする。
 隼人は数馬の髪の毛を掴んだまま、最大の高まりの瞬間まで気持ちを盛り上げた。下から腰を突き上げるように荒々しく揺さぶる。
 やがて、
「い…いく、ぜ。飲めよな……くっ、んんんっ!」
 膨らみきった亀頭から白濁液が噴出し、口の中にぶちまけられた。かなりの量だった。粘ついた熱汁が喉の奥を直撃する。数馬はそれをすべて飲み干した。
 そして、口から抜き取られた肉竿から数滴のザーメンが床に滴り落ちるのを見た瞬間。
「あ…っ!」
 条件反射のように数馬は身を沈め、フローリングに垂れた雫を舐め取った。
 その様子を見て、隼人は目をむいた。
「おま…、バカか! そこまでやれって言ってねーだろうが! ハハハハッ!」
 隼人の高笑いを聞いて、数馬はハッと我に返った。体が勝手に動いたことに、やっと気づいた。こうしなければ殴られると、幼い頃に強く心に刷り込まれたせいだった。
「くっ…、くそ……」
 上体を起こし、数馬は荒い呼吸を整えた。乱れた髪が汗で顔に貼り付いているのを、肩で拭い落とす。
 もう少し長く続けられていたら……そう思うとゾッとした。数馬は何度も深呼吸を繰り返しつつ、気を鎮めた。
「お掃除もしてくんねーか?」
 声のした方向に、キッと鋭い瞳を向ける。隼人は当然と言わんばかりの顔で、数馬の仕事の続きを待っている。
 口惜しさに脳内がざわめく。その感覚を堪え、数馬は黙って汚れた肉根に舌を這わせた。口の中に苦味と臭気が広がる中、粘り気の強い液体をすべて舐め取る。
 隼人はすっきりとした顔で陰茎を収めると、ファスナーを閉じた。そして裸のまま床に座り込んでいる数馬をそのままに、ソファから立ち上がる。
「数馬、お前に見せたいものがあるんだけどよ」
 壁際のローテーブルの上から何かを拾い上げながら、隼人は言った。一枚の薄い紙を数馬に見せてくる。裏に黒い部分があるその紙は、宅配便の送り状のようだった。
 目の前にその紙をかざされて、数馬は息を飲んだ。
「これ、お前んとこの住所で間違いねーよなァ? 渋谷区幡ヶ谷」
「こ…れは、竜……」
「律儀な人だよな。こないだのお詫びってことで、ギフト送ってきてくれたよ。バカラのマッセナ。センスいいよなァ、さすが」
 芸能界という業界は交友関係が命である。贈答品などは日常茶飯事だ。当然、竜児も例外ではない。
 あの晩は、竜児にしてみれば不可解な夜ではあっただろうが、パーティーをすっぽかして眠りこけてしまった、と彼が思い込んでいるのは事実である。このような気遣いを彼がするのは、当然の成り行きだった。
「向こうから自宅の住所教えてくれたわけだから、やっぱ何かお礼しねーとまずいよな。どう思う?」
「……」
 数馬が無言のままでいると、隼人は送り状をテーブルの上に戻した。そして代わりに、一枚のディスクが収められた透明のジュエルケースを手に取った。
 刹那、数馬の顔色が変わった。顔面から血の気が失せていく。
 隼人はチラッと目を流して数馬を窺うと、ニヤニヤと笑いながら、
「これ、送ってやろうと思ってんだけど、……なァ、お前…どうしたい?」
 と、言った。
 数馬は目を見開いたまま、声も出せなかった。口の中がカラカラに渇いていた。目の前の男に殴りかかりたい衝動に駆られたが、両腕を拘束されたままではどうすることもできない。全裸で局部をあらわにした姿のまま、歯噛みするしかない。
 隼人はケースに入ったDVDを、わざと数馬の目の前に差し出した。ラベルには何も書かれていなかったが、これにどんな映像が焼かれているかなど、火を見るよりも明らかだった。
「なァ? これ、田島竜児に送られたら嫌だよなァ?」
「てめェ……最初から、こうするつもりで……」
「当ったり前だろ。お前が田島竜児と友達だってわかった時から、これぐらい考えてたよ。いくらルームメイトでも、これはさすがに見せてねーだろ。前に冗談で言ったら慌ててたしなァ。あっ、こりゃマジだわ、と思ってよ」
「……」
 数馬は、少し前の電話を思い出した。
『ビデオ、DVDに焼いて田島竜児にプレゼントしたっていいんだぜ?』
 あの時、電話口で慌てた数馬の態度で、隼人は確信したのだろう。数馬は忌まわしい過去を、竜児に隠していると。
「お前がこれからも俺の役に立ってくれんなら、これは送らない。逆らうなら、全部バラす。ま、そういう話よ」
「それが明るみに出たら、お前だって困るはずだ!」
「明るみに出たら、な。記事になったりしたら、俺だってヤバいさ。でも、個人にダビングするぐらいなら、何も問題はねーよなァ。田島竜児だって、これを見て新聞社に売るってことはしねーだろ。何たって、大事な親友が映ってるんだからな」
「やめろ! 頼むから竜児を巻き込むな……」
「仕方ねーだろうがよ。あいつのバックには飯田プロがあるんだ。俺ァ何としても、そっちにツテを作りたいのさ」
「俺に……どうしろって……」
「細かいことは後で打ち合わせる。今日は、お前の意思確認をしたいだけだよ、数馬。このDVDと引き換えに、何でも言うこと聞くって約束すればいい」
「そんな口約束……信じられるか! 利用するだけして、最後は裏切るつもりだろ……」
「そう言うと思ってよ。証人を立ててやることにしたんだ。もうじき来るから、いい子にして待ってるんだな」
「来る? 誰が……?」
 数馬は怯えたように身を屈めた。この屈辱的な姿を人目に晒すなど、信じられなかった。
「心配しなくても、お前も知ってる奴だよ」
 隼人の言葉が終わるか終わらないかのうちに、インターホンが鳴り響いた。隼人は数馬を無視してリビングを出ると、バタンとドアを閉めた。
 数馬は、急いで床に脱ぎ散らかした自分の服の山へと移動し、首を突っ込んでカットソーを捜し出すと、口にくわえて引っ張り出した。そのまま股間を隠すように体の上に置き、息を飲んで身を潜めた。
 六年前に撮ったビデオを持ち出されて脅迫されることを、予想していなかったわけではない。隼人と接触した時から、その恐怖と数馬は戦っていた。ある意味、覚悟はできていたはずだった。
 それなのに、実際にそうなってみると、驚くほど自分は弱かった。歯向かうこともできず、黙って従うことしかできない。他に選択肢はない。自分という人間の恥のすべてが映ったビデオである。絶対に誰にも見られたくはなかった。
 薬を飲まされ、運ばれた先で、ビデオは撮影された。Dark Legendというバンドのベーシストがゲイ向けのアダルトビデオに出演しているという既成事実を作るためだけに、数馬は隼人に嵌められたのだ。
 結果として数馬はバンドを脱退し、当時の親友であったギタリストもメジャーを諦めることとなった。残った二人のメンバーだけが、別のメンバーと組んでデビューした。それがロックバンドREVENGEの始まりだった。
 突然、リビングのドアが開け放たれた。
「……っ」
 数馬は思わず顔を背けた。そこに誰が立っているのか知ることよりも、羞恥心の方が勝っていたのである。
「だ、誰? 女…の人?」
 おどおどした声が数馬の耳に届いた。隼人と共に入室してきた人物は、数馬の長い髪に惑わされ、男とは判別できないようだった。
 直後、威圧的な隼人の声が響いた。
「顔上げろよ、数馬。懐かしのご対面だろ?」
「か、数馬? って、あの……」
 その声には、聞き覚えがあった。数馬はガバッと顔を上げた。
「タカ……」
「数馬。数馬……なのか?」
 REVENGEのドラマー進藤孝弘が、電柱のようにその場に突っ立っていた。
「……」
 数馬は孝弘の顔を数秒間、見つめた。そしてすぐに嫌悪感を剥き出しにして、横を向いた。噛み締めた歯が、ガチガチと震えて音を立てている。
 孝弘はただ愕然と、その場に立ち尽くしている。この部屋で何が起こっているのか、思考を巡らせるだけで精一杯だった。
「そこ、座れよ。孝弘」
「あっ、いや……取り込み中なら俺、向こうで待つから……」
「全然取り込み中じゃねーよ。こいつは望んでここに来て、自分からこの格好になったんだ。気にするこたァねーんだよ」
「そんな…」
 孝弘は落ち着かない様子で周囲をキョロキョロ見回した。極力、数馬からは視線を逸らそうとしている。
 数馬は横を向いたまま、固く目を閉じていた。
 隼人は乱暴に孝弘の腕を引っ張ると、ソファに座らせた。目の前に数馬が跪いている。孝弘は膝を揃え、緊張した面持ちで天を仰いだ。
 飾り気のない男だった。アシンメトリーに仕上げた髪を金色に染めているのも、ブランド物のトレーナーを身に着けているのも、本人の意志ではない。あまりにも彼が身だしなみに気を遣わないため、スタッフが好意でコーディネイトしているのだった。
 そんな素朴な孝弘の姿は、インディーズ時代とまったく変わってはいなかった。数馬は昔を懐古したが、すぐに忘れようとした。それは、こんな惨めな出で立ちで旧友に再会したことが苦痛だったからに他ならない。
 隼人は馴れ馴れしく孝弘ににじり寄った。さっき数馬にしたように肩を組み、頬が密着するほどに接近している。孝弘は慣れているのか、特に体勢は変えなかった。
「孝弘よォ。今日呼びつけたのは、ちょっと頼みがあるからなんだよ」
「い…いいよ別に。何でも……」
「いや、俺じゃねーんだ。お前に頼みがあるってのは、こいつさ」
 隼人は、顎で数馬を指し示した。
 数馬は不思議そうな顔で、隼人を見上げた。彼が言っていることの意味が理解できなかった。孝弘もまた、きょとんとした顔で隼人の次の言葉を待っていた。
「どういう意味だ…?」
 数馬が質問を絞り出した。
 隼人は例のディスクを孝弘の前にチラつかせながら、話し始めた。
「このDVDに、アレが入ってる。俺はこれをある人にプレゼントしたいんだが、数馬は嫌なんだそうだ」
「そんなの当たり前だろう! 何考えてるんだよ隼人!」
 孝弘の顔が青ざめた。形のいい唇がプルプルと震え、激しい狼狽を見せている。
 数馬はほんの少しだけ、胸が温まるのを感じた。自分以外にも、ビデオの存在を疎ましく思っている人間が存在することが、嬉しかった。しかしすぐにその思いを振り払う。過去に孝弘が自分に対して行ったことを想起し、きつく瞼を閉じた。
「そこで俺は数馬と約束した。誰にもこれは渡さないってな。でもこいつは、俺のこと信用できねーって言うんだよなァ」
 隼人の話は続いていた。孝弘は宙に視線を泳がせながらも、じっとその声に耳を傾けていた。その肩をポンと叩き、隼人は意味ありげに笑った。
「だからよ。お前、証人になってくれよ。俺が勝手なことしねーように、お前が俺を見張るんだよ。どうだ?」
「見張るって言われても。何すれば…」
「何もしなくていいんだよ。とにかく、俺とこいつの約束の証人になってくれりゃいいのさ。……なァ、それでいいだろ数馬?」
 数馬は無表情のまま、俯いて床を見つめていた。
 隼人が何を企んでいるのか、またわからなくなった。しかし、彼は何か、とても焦っているような印象を数馬は抱いた。ビデオという切り札をこんな形で出してまで数馬を操ろうというのだから、そこには底知れぬ事情があるに違いなかった。
「……好きにしろ」
 どう転んでも、脅迫されていることに変わりはない。孝弘を巻き込むか、巻き込まないかというだけの話だ。今ここに孝弘がいる以上、もはや彼を部外者として扱うことに意味などない。
 数馬の返事を聞き、隼人は色めき立った。直後、数馬の膝から服を剥ぎ取り、隠れていた股間をあらわにした。
「やめろっ!」
「あっ」
 そこに目が吸い寄せられてしまった孝弘が、数馬とほとんど同時に声を上げた。頬を真っ赤に紅潮させ、慌てて視線を横に逸らす。
 隼人は数馬のカットソーを手に持ったまま、ゆっくりと足を組んだ。そして、
「じゃあさ、お前から孝弘にちゃんと頼めよ。お前のために証人になってくれるんだから、ちょっとぐらいはサービスしてやれば?」
 と、数馬に提案した。
 その言葉が何を意味しているのか、数馬は一瞬で理解した。
「バ…バカなこと……」
 一方、当の孝弘は状況が把握できず、他人事のようにあらぬ方向を見たままだった。
 

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