ジュリアスが切ない声を絞り出し始めたのに気づくと、デッドマンはテッドを呼んだ。
「テッド、こいつのチンポから、たっぷりザーメンを搾り出せ。弟に見えるようにな」
そうデッドマンが命じると、テッドはすぐに手を伸ばし、ジュリアスの肉棒をギュッと握った。そのまま速い動作でしごき始める。
「やっ! や、あ、はぁあ……! やめろ……だ、だめっ……あぁっ……!」
「気持ちよくなれよ、ジュリアス。ケツの穴ほじくられながらイクの、好きなんだろ?」
「い、いやだ……い、今は出したく、な……あっ、あっあっ! やっ……」
「へっへっへっ、びゅるびゅる出すとこ、弟くんに見てもらおうぜ?」
「だ、だめ……そんな……さ、触るなっ、んあああああっ!」
どれだけかぶりを振っても、許してはもらえなかった。両腕のない体で両足までがっちりと縛られて、抵抗などできるはずもない。
先端から滲み出した雄汁を亀頭にまぶしつけられ、円を描くように親指でなぞられる。それだけでジュリアスは、全身が熱く痺れるのを感じた。
テッドが竿をしごき上げる度に、ヌチュヌチュと液体が音を立てる。ねばついた我慢汁は、後から後からだらしなく染み出して、ジュリアスの羞恥心を煽った。
「ジュリィ……」
そんな兄の痴態を、何も言わずにユリアンは見つめていた。
暴れても騒いでも、兄は助けてもらえないのだと悟った。こうやって彼らの性欲を処理することで、ジュリアスはこの西部で生き抜いてきたのだ……。
もし本当にデッドマンたちの言う通り、兄が好き好んで堕ちたのだとしたら、足を縛られているはずがない。動けないように拘束しなければ言いなりにならないからこそ、縛られているのだ。
兄が高貴な魂を捨て去っていない、それが何よりの証拠だった。
犯罪に加担しているのが本当だとしても、それは兄の本意ではない。それが今、はっきりとわかった。
その時、不意にユリアンは顔の下半分を覆われた。慌てて視線を動かすと、スコットが横から手を伸ばし、大きな掌で自分の口を塞いでいるのが見えた。
「……?」
その時の弟の様子を、ジュリアスは見ていなかった。
ジュリアスは俯いたまま、床に唾液を滴らせていた。恥ずかしさのあまり、体を丸めるように縮こまっている。
「ああっ……も、もう……ああああっ、だ、だめ……くはあああぁっ……」
後腔を貪られる衝撃も、肉棒を弄ばれる羞恥も、ジュリアスを限界まで押し上げる甘美な刺激となっていた。
追いつめられ、耐えることができず、ジュリアスはガクガクと体を震わせた。
「い、いく……い、いくうぅっ……!」
股間から、波紋のように全身に快感が広がった。そしてとうとう、膨れ上がった亀頭の先端から、勢いよく白濁液がほとばしった。
パンッ……と大きな音が部屋に響いたのは、その直後だった。
「……!!」
ジュリアスは思わず顔を上げた。
「ユリアン……」
椅子に座ったユリアンの口を、スコットが手で塞いでいた。その手が瞬く間に、どろどろとした血で染まっていく。
大きく見開いた目は、片方しか形を留めていなかった。もう片方の目が存在していたあたりには黒い穴が空き、煙が上がっていた。
「ユリアンッ! ユリアンーーーッ!!」
穴から噴き出した血と脳漿が、ユリアンの体を真っ赤に染め上げた。スコットが手を離すと、細い首ががっくりと折れ、頭の後ろ側が破裂しているのが見えた。
「ユ、ユリ……あああああああああああっ! ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ! ユリアン! ユリアンッ!!」
ジュリアスは狂ったようにのた打ち回り、ユリアンの元へ行こうとした。それを背後からがっちりと押さえつけられる。
「まだ俺がいってねえんだよ……もう少し待ちな。クククッ……」
デッドマンは右手で構えていた拳銃を、ゴトンと床に置いた。銃口から、うっすらと白い煙が立ち上っている。
ジュリアスがテッドに嬲られて下を向いていたあの時、デッドマンはスコットに指示してユリアンの口を塞いだ。そして、正面から彼の頭を撃ち抜いたのである。
「なぜだ!? なぜ、ユリアンを……なぜだっ!?」
「そのうちわかる。フフフッ……それより、身内が殺される瞬間に射精した気分を教えてもらおうか、ジュリアス?」
「ううっ……ううううっ! ゆ、許さない……貴様ら全員、殺してやる!」
「フフッ、ようやくお前らしくなってきたな。そうだ……そうやって俺を憎め。俺を殺すために生き抜け。フフフフッ……ハハハハハッ!」
デッドマンは高笑いしながら、ジュリアスの尻を抱え込んだ。亡骸に駆け寄ろうとするジュリアスを強引に押さえつけ、濡れ穴を蹂躙する。
「ユ、ユリアン……ユリアン……ど、どうして、あああっ……あああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
ジュリアスの視界が涙でぼやけた。ドクドクと弟の頭から噴き出る鮮血に、頭がおかしくなりそうだった。
膨れ上がった亀頭で腸壁をごりごりと擦られている。デッドマンが激しく腰を打ちつける音が、部屋の中に響いていた。
「この世で最後に見たもんが、兄さんの掘られてる姿とはな。ハッハッハ」
「ううううううううっ……どうして、こんなことに……ぐうぅ……うっ、ああぁ……」
髪を振り乱して、ジュリアスは嗚咽した。しゃくり上げる度に咳がこみ上げてくる。ゴホッ、と咳き込むと、口の中に血の匂いが広がった。
やがてデッドマンは力強く腰を揺り動かし、ジュリアスの体内で果てた。体を繋いでいた楔を抜き取ると、大量の精液がゴポッと外に流れ出す。
「ユリアンっ……ユ、ユリア……ン……」
ようやく解放されたジュリアスは尺取虫のように床を這いずって、弟の座る椅子に辿りついた。床は血みどろで、ところどころに脳の破片が散らばっていた。
さっきまで生きた人間だったものが、がらくたのようになって椅子に載っている。驚愕に歪んだ表情は、そのまま強張っていた。正面から銃口を向けられ頭を打ち抜かれるなど、常軌を逸した恐怖だっただろう。
「ユリアン……ユリアン……ユリアン……お、俺のせいで……こんな……」
ジュリアスは遺体の膝に頬擦りした。胸に顔を埋めたくても、足が縛られている状態では届かない。それでも何とか上体を伸ばし、弟に密着しようとするジュリアスを見て、スコットとテッドが吹き出した。
「必死でよじ登ろうとして……惨めだねェ〜〜」
「久しぶりに面白いショーが見られたな。退屈してたから、いい暇つぶしになったぜ」
下品な笑いを浴びせられながら、ジュリアスは弟の亡骸にすがりついた。
頭に空いた穴から流れ出る血液が、椅子と床を濡らしている。ジュリアスの肌もその血に触れ、赤く汚されていった。
「ユリアン……ユ、ユリアン……ああっ……あああああああああっ……」
他の言葉など思いつかなかった。ジュリアスはただひたすらに弟の名を呼び、激しくむせび泣いた。
ジュリアスの背後で身支度を整えたデッドマンが、部下たちに命じる。
「早く死体を片付けておけ。サムとフィリップが帰ってきたら、またいろいろうるせえからな」
それだけ言うと、デッドマンはジュリアスに一瞥もくれず、黙って部屋を出て行った。
スコットとテッドは命令を遂行するべく、椅子に歩み寄った。
スコットがユリアンのロープをほどき始めると、ジュリアスは泣きながら哀願した。
「た、頼む……もう少しだけ……もう少しだけ待ってくれ……た、頼むから……」
「うるせえなぁ。ボスの命令なんだよ!」
テッドがジュリアスの髪の毛をつかみ、遺体から引き剥がす。
「待っ……頼む、少しでいいから……そこに弟を寝かせてくれ……別れを言わせて……」
「うるせえって言ってんだろ!」
テッドは必死にすがりつくジュリアスの胸を蹴りつけて、乱暴に床に転がした。
ジュリアスは激しく咳き込み、床に喀血した。
「悪く思うなよ。早くしねえとプラムリーさんが帰ってくるからさ」
「曹長は、前からこのことに反対してたからな」
そのスコットの言葉に、ジュリアスがピクッと反応する。
「前から……だと? ……じゃあ、ユリアンがここへ来たのは……」
「来たのはこいつが勝手に来たんだよ。でも、来ることはわかってた。だから、途中から俺が張りついたのさ。ボスの命令でな」
スコットはロープを解き終えると、遺体を肩に担いだ。そして、口笛を吹きながら部屋を出て行った。
すぐにテッドが椅子を抱えて後を追いつつ、途中でジュリアスを振り返った。
「来なきゃ来ないで、ジョージアに殺しに行くつもりだったらしいから、手間が省けたって言ってたぜ」
「ジョージアへ……? ボスが……そう言ったのか……?」
「お前に手紙が来てただろ? あの時からだよ」
「……」
「曹長とドクターは反対してたよ。あの人たちは、反対してもボスに殺されねえからな。でも、俺たちはそうはいかねえからさ……悪いな、許してくれよ。ちゃんと、墓に花ぐらい添えてやるからよ」
ばつの悪そうな顔でテッドは笑った。そのまま椅子を持って、部屋を出て行く。
「ユリアン……ユリアンっ、ユリアンっ、ユリアンッ! ああああああああああああああーーーーーーーーーーっ!!!」
後に残されたジュリアスは、床に頭を打ちつけて、号泣した。
そのまま何時間、泣き続けただろうか。
ジュリアスは放心したまま床にへたり込み、じっと床の血溜まりを見つめていた。
故郷から届いた手紙には、こう書いてあった。十八歳になったユリアンは、アトランタで就職が決まったと。もう、ジュリアスの仕送りだけに頼らなくてもいいのだと。
それを読んでジュリアスは安堵した。もう、犯罪の片棒を担がなくても済むと思った。
しかしボギー・ギャングにとって、それは重大な問題だったのだ。
実家の家族へ送金するためにデッドマンに従っていたジュリアスが、報酬を必要としなくなるということは、参謀としての仕事を放棄するということに繋がる。
『俺がいなきゃ仕事が立ち行かないところまで来てるみたいだな』
『その通りだと言ってやる……』
デッドマンと交わした会話が思い起こされる。あの時、すでに彼はユリアンを殺害する計画を立てていたのだろう。
そしてその計画をジュリアスに気づかれないために、偽りの愛を与えた。
それは、ジュリアスの心を完膚なきまでに踏みにじり、再び心に復讐心を植えつけるためでもあったが、何よりもジュリアスを油断させておくことが目的だったに違いない。
病に蝕まれた自分を優しく慈しむデッドマンを、疑うことなどできなかった。愛さずにいられるわけがなかった。その心を利用されたのだ。
稼ぎ手の弟が死亡したことで、再び経済的な負担も掛かってくる。ジュリアスは、またデッドマンに服従するしかなくなったのである。
終戦から十年近く経過したとは言え、南部の状況は未だ改善されてはいなかった。北部の政治家は一気に税金を引き上げ、南部の人間を苦しめた。
最早、ジュリアスに選択肢などなかった。今まで通りの生活を死ぬまで続ける……それ以外の道は、完全に途絶えた。
今後、妹がいい仕事に就いたとしても、母の雑貨屋で儲けが出るようになったとしても、同じことだった。デッドマンはまた、ジュリアスの家族を殺すだろう。殺さずとも、ジュリアスのような不具者にすることなど簡単だ。
ジュリアスは、まだ役目を終えることはできないのだった。
すべてを悟り、ジュリアスは静かに両目を閉じた。
*
Violated Mind-06へ続く(全6頁)
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