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 実家から届いた便箋を前に、ジュリアスは泣き腫らした目をゆっくりと開いた。
 ユリアンが死んでから十日。ふとした拍子であの瞬間を思い出し、錯乱する日々が続いていた。
 医師のスチュアートはモルヒネを利用しようとしたが、ジュリアスは拒んだ。自分の感情ぐらい、自分でコントロールするつもりだった。
 ジュリアスは大きく息をつき、床に転がった拳銃を足で引き寄せた。そばにばら撒かれている六発の弾薬も一緒に集める。
 この、銃身の長い回転式拳銃は、デッドマンがジュリアスに買い与えたものだ。
 この上なく美しいボディラインと、初めて見る金属薬莢式に少しだけジュリアスは興味を持ったものの、どうせ使うことができないと、放り出していた。今、改めてそれを目の前に置く。

『どうだ、気に入ったか? これで俺を撃ち殺してみろ』
『どうせできないとわかってて……悪趣味だな』
『できるか、できないかは俺の知ったことじゃねえ。ただ、こいつを使えば俺を殺すことができると言っているのさ』
『フン、そんな夢みたいな話……』

 ジュリアスは足の指を使い、ハンマーをハーフコックにした。そして器用に輪胴式弾倉のローディングゲートを開けた。弾薬を装填する穴が六個空いている。
 その穴を目標に、ジュリアスは足元の弾薬を足の指でつかみ、持ち上げた。
 しかし装填どころか、弾薬はすぐに指から外れ、ゴトンと床に落ちた。それをもう一度摘まみ、持ち上げるが、あえなく弾薬はポロッと下に落ちた。
 床に落ちた弾薬は、ゴロゴロと音を立てて床を転がった。ジュリアスは何度でもそれを拾い集め、弾込めを試みた。
「くそっ……くそっ……」
 歯を食いしばり、ジュリアスは弾薬を足の指で操る訓練を続けた。
 バウンティ・ハンターの頃に使用していたパーカッション・リボルバー式の拳銃では、足で扱うことは不可能であったが、この金属薬莢式リボルバーであれば、弾を込めて撃つことも夢ではない。
 気の遠くなるほどの時間がかかるかもしれなかったが、それでも構わないとジュリアスは思った。
 ゴトン、ゴロゴロ……という音が、何十回も部屋に響き渡る。
 ジュリアスは一歩ずつ、諦めかけていた復讐に向かって前進し始めた。

(了)
 

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