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 デッドマンはジュリアスの髪の毛を掴むと、彼をベッドから引きずり下ろした。大きな音を立てて、細い体が床に叩き落とされる。
「ううっ……」
 関節を打ち付けた痛みに、ジュリアスが呻いた。
 構わずにデッドマンはベッドの淵に座り直し、脚を大きく開いてジーンズの前ボタンを開けた。いきり立った雄身が、待切れないように外に零れ出る。血管が浮き上がり、反り返るほどに大きく硬直している。
 デッドマンはジュリアスの髪をもう一度掴んで引き上げ、乱暴に股間に近付けた。
「やっ! 嫌だ……っ」
 ジュリアスはきつく歯を閉じ合わせ、かぶりを振った。直後、鈍い音がして、腹に重い痛みが走る。デッドマンのブーツの先が、ジュリアスの腹部に食い込んでいた。
「ぐっ……あああ……」
 目を見開いて、体を二つに折ろうとしたジュリアスの腹に、もう一発キックが見舞われた。ウェスタンブーツの先は無慈悲に尖っている。それがみぞおちを直撃した。
「……っ、あ……」
 声を失い、ジュリアスは崩れ落ちた。
 しかし髪を掴まれたままでは、倒れることさえ叶わなかった。デッドマンはジュリアスの頭を両手で抱え、強引に引き寄せた。
 剛直が唇に押し当てられる。歯を噛み合わせて拒もうとしたが、力が入らなかった。
 直後、熱い肉の塊が口の中に差し込まれた。
「ふ…ふぐうっ!」
 もがいても、吐き出すことはできなかった。頭の両側をがっちりと掴まれ、少しも顔が動かせない。
 その状態でデッドマンは、ジュリアスの頭を容赦なく前後させた。焼かれて爛れた舌の上をペニスが行き来する。
「う…ぐっ、あっ、は…が、があぁっ……」
 ジュリアスは苦悶の表情で呻いた。息が詰まりそうだった。
 巨根が喉の奥まで突っ込まれたかと思うと、入り口近くまで引き戻される。そしてすぐにまた、口の中いっぱいに押し込まれる。その繰り返しだった。
 赤黒い姿がジュリアスの口から見え隠れする。奥まで差し込まれる度に、溢れ出る唾液が音を立てた。
「んっん……ぐうぅ……あっ、んむううっ」
 口腔を出入りするうちに、男根は更に大きく張りつめた。ジュリアスの唇に密着したまま、口を大きく広げさせていく。絶え間なくヨダレが流れ落ち、顎を伝った。
 ジュリアスの目に涙が滲んだ。息苦しさは頂点に達し、窒息しそうなほどだった。
「舌を使え。横着するな」
 デッドマンの声が遠くで響いた。両耳を手で塞がれているため、よく聞こえなかった。
 気が遠くなりそうな苦しみの中で、ジュリアスは舌を動かそうとした。火傷の痛みが脳天を貫く。それでも休むことは許されなかった。
 ジュリアスは、この苦痛が早く終わることだけを願い、必死で肉棒をしゃぶり立てた。裏すじを舐め、亀頭に舌を這わせ、唇をすぼませて雁首を刺激する。
 鈴割れからねっとりとした先走り汁が溢れている。それを啜ると、口の中に独特の臭いが充満した。ジュリアスは何度も吐き気を催した。
「うっ、ぐ……あ、あがっ、はっ…ああっ」
 デッドマンの腰が小刻みに動き始めた。荒々しいピストンがジュリアスの口腔を嬲る。
 喉の奥に、雁が大きく張った先端が当たる。ジュリアスはむせ返りながら、込み上げてくる嘔吐感に耐えた。
 やがてデッドマンはジュリアスの頭を激しく揺さぶり、腰と太腿を震わせた。
 同時にジュリアスの口の中で亀頭が膨張し、跳ね上がった。次の瞬間、喉の粘膜に熱い飛沫が浴びせられた。
「むぐっ!」
 たっぷりと注ぎ込まれた精液が、喉に絡み付く。
 デッドマンは、まだ迸りが続いている凶根を引き抜いた。そしてジュリアスの顎を掴むと、開いたままの口の中に、だらだらと白濁液を垂らし落とした。粘り気の強い汁が舌の上に溜まっていく。時間の経過と共に、異様な臭気が漂い始める。
「う…あっ、げっ、ゲーッ…」
 耐えきれずに、ジュリアスは精子を吐き出した。喉の奥に引っ掛かったものを、飲み下すことは困難だった。
 デッドマンが手を離し、ようやくジュリアスは解放された。
「ゲ…ゲホッ! ゲホッ!」
 体をくの字に折り曲げて、ジュリアスは激しく咳き込んだ。吐き出した精液が唾液と混じりあい、舌先から糸を引いて床に落ちた。
 ベッドの上に手紙が散らばったままだった。デッドマンは便箋の一枚を手に取ると、性器を拭い、後始末に使った。ジュリアスの名が書かれた部分に精液が付着し、染みを作った。紙を丸めて床に放り投げ、デッドマンは一物をジーンズにおさめた。
「ゴホッ、ゴホッ…」
 ジュリアスはデッドマンに背を向け、床の上に座り込んでいた。背中には固まった白い蝋が幾つもへばりついている。魚の鱗のようだった。
 デッドマンはベッドに座り直して足を組んだ。葉巻を取り出して先端をカットする。靴底でロウマッチを擦り、火をつけて一服した。
 キャンドルの炎が揺らめきながら、ぼんやりと二人を照らしていた。やがて、壁に映る影の一つが動いた。デッドマンが大きく煙を吐き出し、ベッドから立ち上がる。
「…ゴホッ……ゴホン……」
 しきりに咳を繰り返しているジュリアスの脇を通り抜け、扉に歩み寄った。取っ手を握って扉を開ける。廊下の天井からぶら下げたランプの明かりが部屋に差し込んだ。
「ゴホッ…ゴホッゴホッ…」
 デッドマンの背後で、ジュリアスの発した音が響いていた。それは延々と、留まることを知らないように続いた。デッドマンは扉に手を掛けたまま振り返った。
「……」
 無表情でジュリアスを見つめる。
 ジュリアスは跪いたまま、頭を垂れていた。長い前髪が顔を覆い、表情は読み取れなかった。咳き込む度に激しく上半身が揺れていた。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ…ゴホッ」
「……ジュリアス」
「ゴホッゴホッ…ゴホッゴホッ…」
「ジュリアス」
 デッドマンは踵を返し、ジュリアスの脇に立った。不審な眼差しでジュリアスの顔を覗き込もうとする。その時だった。
「グッ…ゲボッ!!」
 突然、ジュリアスの口から大量の血が吐き出された。
「なっ……ジュリアスっ!?」
 真っ赤な血が床に叩き付けられ、飛び散った。ドス黒い痰が混じっている。なおも血はジュリアスの口からポタポタと滴り、床に池を作っていた。
「ハッ…ハア……ハア……ハアッ……」
 唇が真っ赤に染まっていた。目をカッと見開いて、緋色の雫を凝視している。開いたままの口の中が血みどろだった。


 スチュアート・オネイルは、ジュリアスの診察をした後、彼を自室へ戻した。
 上等な黒のガウンを着せられ、医師の手で運ばれる男の姿を、仲間たちが無言で見つめていた。
 ジュリアスは眠っているのか、身動き一つしなかった。青白い顔と色褪せた唇が、ランプの明かりで照らされていた。
 部屋に入り、しばらくして再び廊下に姿を現したスチュアートは、目配せをしてデッドマンを呼んだ。
 デッドマンは椅子から立ち上がると、スチュアートと共に別室へ入っていった。
「もうわかっていると思うが」
 スチュアートはそう切り出した。すぐにデッドマンは答えた。
「肺病か」
「ああ……そうだ。なぜ、あんなになるまで気付かなかったのか……」
 そう言うと、スチュアートは天を仰いだ。
「かなりひどいのか」
「長く患うことになるだろう。五年かもしれないし、十年かもしれない。だが、それもきちんと療養しての話だ。……これがどういうことか、わかってくれるな?」
「……」
「肺病には、安静と栄養が不可欠だ。今すぐ彼をサナトリウムへ入れるんだ」
「それはできない」
 あっさりと、デッドマンは言い放った。
「ボス! ジュリアスは死ぬんだぞ? わかっているのか?」
「誰だっていつかは死ぬだろうよ」
「今の生活を続けていたら、数年ともたない。それでもいいのか」
「寿命を延ばすのはあんたの仕事だろう。ドクター」
「もういいだろう。ここまであの子を苦しめたんだ。残りの人生は、静かに療養させてやってくれ。この辺りなら、デンバーに評判のいいサナトリウムがある。デンバーでなくても、あの子が行きたいところに入れてやればいい」
 スチュアートは語気を荒げ、デッドマンを睥睨した。そして、ゆっくりと言葉を続ける。
「大佐。私はジュリアスを愛している。だから死なせたくない。貴方だって彼を……」
「話は終わりだ、スチュアート。あいつと話せるか?」
「モルヒネは使ってないよ。疲れて眠ってるだけだ。もう……彼を折檻するのは控えた方がいい。意見する気はないが」
「考えておく」
 デッドマンはスチュアートに背を向けて部屋を出た。そして、真直ぐにジュリアスの部屋へと向かった。


 

Bloody Kiss-03へ続く(全4頁)