跳べ! 真里!!(4)

一週間後。
真里とみその、そしてアリサは、都内のデパートにいた。
平日の午後なので、休日ほどには混雑していない。彼女たちは学校が終わった後、ここで待ち合わせた。
「あたし、新しいトートバッグが欲しいなぁ〜。みそのちゃんは?」
「あたしは帽子新調しようかな。レザーっぽい感じのショーパンもいいな」
「アリサはねぇ、えぇっとねぇ、何にしようかなぁ」
少女たちは口々に、勝手な買い物計画を立てている。
その横で、ジキルはコホンと咳払いをした。
「あんなぁ、お嬢さま方」
「へィ?」
「はーァ?」
「なぁに?」
「いや、アリサはええねんけど。なんで、お前らも一緒におるんや?」
真里とみそのは心外だという顔をした。
「何よーう。四人で来なかっただけ有り難く思いなさいっての」
「そうだよ。まあ、雅香ちゃんと紗菜ちゃんに、おみやげは買ってもらうけどさ」
「いや、せやから、なんでお前らの分までワシが……」
するとアリサが、ジキルのTシャツの裾を引っ張った。
「アリサがさそったの。だって、うまく跳べたの真里ちゃんたちのおかげだもん」
「んうう……ア、アリサがそう言うなら……しゃーないなぁ」
「さすが店長っ! 気前がいーねっ」
真里が手を叩きながらその場でジャンプした。
みそのも腕を組み、当然だという表情で深くうなずいている。
二人は大きなつばのリボンキャスケットを目深に被り、一応は変装していた。
真里は薄い緑色のフレンチスリーブのタンクトップ。襟と袖の淵に黒い線が入っている。ボトムはいつものデニムミニだが、裾の部分に銀色の鋲がちりばめられていて、ややパンキッシュなイメージだ。
みそのは大きなフレームの眼鏡をかけている。もちろん、度は入っていない。服はピンクのむら染めTシャツと、飾りファスナーが縫い付けられた、インディゴブルーのコットンショートパンツである。
確かに一見、どこにでもいる小学生のように見える。しかし、アイドルの華やかな雰囲気は、なかなか隠せるものではなかった。
そういうわけであるから、
「……で、どうして俺までがここに来なくちゃいけないんだ?」
という槍介の問いの答えは、考えるまでもなく、わかり切ったことなのである。ここにいる二人がスターだからに他ならない。
雅香と紗菜の二人は、今日もユニット『MasakaSana』の仕事で別行動である。先日と同様、そちらにはマネージャーの直子が付いている。
「本当は、マネージャーもこっちに来たがってたんだけどね」
みそのが言った。
「どーして?」
真里が尋ねる。するとみそのは、
「人相の悪いおじさん二人で小学生を連れ回してると、通報されるかもしれないからだってさ」
と、淡々と答えた。直後、
「悪かったな!」
男二人の声がハモッた。
そういった類いの周囲の視線にもめげず、成人男性二人は三人の美少女を連れ、デパートのエスカレーターを上に昇った。
途中、子供服売場で時間を費やす。
真里とみそのは目を輝かせて、商品をいろいろと漁った。
「このバッグ、ダンスのレッスン行く時にいいなあ! いっぱい入りそう!」
「この帽子可愛い! 見て見て真里ちゃん、ここが猫耳みたいになってるの」
「うわぁ、かわいいね〜っ! ねえ、この髪飾り紗菜ちゃんに似合うんじゃないかな」
「このリボンタイ、雅香ちゃん向きだよ。とってもお嬢さまっぽいもの!」
きゃあきゃあと騒ぎながら、片っ端から商品を抱えて行く二人であった。
「そっちのお嬢ちゃんは、洋服は買わないのか?」
槍介がアリサに尋ねる。アリサは売場の商品にあまり興味を示さず、ジキルの手にぶら下がったままだった。
「うん。だってアリサは、ジキルの作るお洋服がいいんだもん」
そう、アリサは槍介に向かって言い放った。
今日の彼女の服も、ジキルの手によるオートクチュールである。首から胸にかけて黒いレースがふんだんにあしらわれ、その下から赤いタータンチェックの生地が覗いている。ウエストの左右には編み上げリボンが施されて、キュッと絞り込めるようになっている。裾はミディ丈で、四段のティアードスカート。その切り替え部分にも、赤いタータンチェックをギャザーフリル状に加工したものが使われていた。
「アリサは、文房具やオモチャの方がええもんな。あれ何やったっけ、サンリオのでか垂れ耳の白い犬」
「シナモンロールだよ、じきる!」
「ああ、それそれ」
「シナモンロール? 何だそれ、パンか?」
「アホか。おっさん丸出しやな」
ジキルの蔑んだ視線が槍介に刺さる。養女とは言え小学生の娘を持つジキルの方が、キッズの流行には詳しいのである。
槍介は苦虫を噛み潰したような顔をして、やり過ごした。
その時、
「店長ーっ! これだけ買うー!」
「あたしも、これだけ!」
真里とみそのが、会計カウンターに商品を置いた状態でジキルを呼んだ。
店員の姿が見えないほど高く積み上げられた商品を見て、彼は卒倒した。
「お前らなぁ〜〜〜」
と、言いながらも、アリサの手前、渋々と黒色のクレジットカードを出すジキルであった。
その後、一行はファンシー文具売場、玩具売場を回る。
アリサもニコニコと笑いながらショッピングを楽しんでいた。
そして当然、荷物を持つのはすべて槍介である。
「これも俺の仕事のうちだってのか。くそ」
海外で要人警護などを行っていた探偵は、パステルカラーの紙袋を大量に持たされ、疲れた様子でうなだれた。
 

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