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White or Black

 

 その晩は、月も出ていない闇夜だった。
 天井から吊るしたランプが、ぼんやりと部屋の中を照らしている。
 ジュリアスは、ベッドに腰掛け、その白い肌を晒していた。
「ジュリアス様、左足を上に」
 言われて、ジュリアスは足を上げた。ウェスタンブーツは履いていない。彼は先程から、使用人のトニーに体を拭かれている。
 古いシーツを切り裂いて作った布巾で、トニーはジュリアスの体を拭った。夕方、大鍋で沸かした湯はすでに冷め切っていたが、ジュリアスは特に気にしなかった。
「いつも悪いな、トニー」
「いいえ。あまり気がきかず、ご迷惑をおかけしてます」
「ボスがいない時ぐらい、俺のことは放っておいていいのに」
「私はただ、ジュリアス様が少しでも気分よく過ごされれば、それで」
 そう言うと、トニーは白い歯を見せて笑った。
 暗がりでは、黒い肌の彼の表情は読み取りにくい。ジュリアスは彼の笑顔を見て、安心したように微笑んだ。
 トニーは半年ほど前から、ジュリアスの身の周りの世話をしていた。両腕を失っているジュリアスのために、手足となって働いた。
 南部出身の人間にとって、黒人奴隷をそばに置くのは、当たり前のことだった。
 六年前、南北戦争の終結とともに、奴隷は強制労働から解放された。しかし南部に残った黒人の中には、解放を喜ぶことなく、未だ主人に忠誠を誓う者もいた。
 よい主人のもとで安定した暮らしを得ることを幸せに思う黒人奴隷もいる……学校の教師であったジュリアスの父の口癖だった。彼の家には乳母と下働きの黒人女がいたが、父も母も、彼女たちに家族のように接していた。
「トニーは、戦争の前はどこにいたんだ?」
「私はアラバマにいました。旦那さまが、でっかい綿花畑を持っていましたんで、そこで」
「綿花を摘んでたのか。大変だったろうな」
「私は愚図だったもんで、よく旦那さまに鞭で叩かれましたよ」
「そうか……」
 綿花の輸出が盛んだった南部では、何よりも黒人奴隷の労働力が必要だった。広大なプランテーションを持つ主人は、大勢の奴隷を必要とした。その中には、彼らを人とも思わず、強制的に朝から晩まで働かせるような傲慢な者も確かに存在した。
 トニーは淡々と、奴隷時代の思い出を語った。ジュリアスは目を閉じて、じっとその話を聞いていた。
 その時、いきなり大きな音がしてドアが開いた。
「よう、ジュリアス。きれいにしてもらったかい?」
 大柄な赤毛の男が、ランプを手にぶら下げて立っていた。
「……」
 ジュリアスは、返事の代わりに男を睨み付けた。
 男の名はグレゴリーといった。皆からはグレッグと呼ばれている、ボギー・ギャングの一員である。グレッグはにやにやと笑いながら、ずかずかと部屋の中へ入り込んできた。
 他の者は昼間、仕事に出掛けた。グレッグはジュリアスの見張りのために、ここに残っていた。
 トニーには気を許していたジュリアスだったが、他の者のことは頑なに拒絶していた。特にグレッグに対しては、特別な憎悪の念が渦巻いていた。
 グレッグはランプを床に置くと、無遠慮にジュリアスの隣に腰掛けた。
「そう、恐い顔すんなって。今日は俺たち三人しかいないんだ。楽しもうじゃねえか」
 そう言って、グレッグはジュリアスの肩を抱いた。指を伸ばし、腕が途切れている箇所に触れる。ジュリアスは発作的に身をよじって、その手を払い除けようとした。
「俺に触るな」
「へへへ。抵抗できると思ってんのかよ?」
「……トニー、こいつを追い出してくれ」
 ジュリアスは、訴えるような瞳でトニーの顔を見た。しかし、トニーはジュリアスの方を見てはいなかった。なぜなら彼は、水の入った木桶をさっさと部屋の隅に片付け、服を脱いでいるところだった。
「いつまでも偉そうにしてんじゃねえよ、片輪の白人が」
 トニーが見事な筋肉をあらわにして、振り向いた。ベッドの上のジュリアスを見下ろし、下半身を隠していたシーツを剥ぎ取る。ジュリアスは生まれたままの姿を、二人の男の前に晒すことになった。
 優しく忠実だったトニーの突然の豹変に、ジュリアスは戸惑いを隠せなかった。
「こいつに買収されたのか、トニー?」
 グレッグを一瞥して、ジュリアスが問う。トニーは下卑た笑いを口元に浮かべた。
「俺は開戦と同時に北部へ渡った口でね。北軍に志願したのさ」
 その瞬間、ジュリアスの表情が凍り付いた。
「……きさま……」
 ジュリアスは、今でも北軍を憎んでいた。目の前で何人もの部下が、仲間が、友人が殺されて行った。戦争の爪痕は、未だ彼の心にしっかりと残っていた。
 そんなジュリアスの思いを嘲笑うかのように、トニーは言葉を続けた。
「戦後、クー・クラックス・クランに追われて、西部まで逃げて来た。割のいい仕事を探してたら、片輪の白人の世話を紹介されたってわけさ。しかも、おたずね者一家のボスの情婦ときてる。相当はずんでくれると思って、おとなしくしてただけだ」
「俺は情婦じゃない」
「同じだろ? 家畜と呼ばないだけありがたく思うんだな」
 トニーはゲラゲラと笑って、ジュリアスの白い体を舐め回すように見つめた。
「能書きはもういいだろう、トニー。早いとこ手伝ってくれよ」
 グレッグが、お預けを食らった犬のような顔でトニーを見上げた。ジュリアスに抱きつき、今にもむしゃぶりつく勢いだ。
 トニーは床にしゃがむと、ジュリアスの両足首を手で掴み、ベッドの上に持ち上げた。
 次の瞬間、グレッグがジュリアスの体をベッドに押し倒した。
「やめろっ!」
 ジュリアスは足をばたつかせようとしたが、トニーの圧倒的な力で押さえつけられた。
 グレッグが上にのしかかり、裸の胸にしゃぶりつく。乳首を指先でくすぐり、舌を伸ばして舐め回した。強く皮膚を吸った部分は赤い斑点となって残った。透き通るような肌の随所に、真っ赤な痕が付けられていく。
「やめろ! 殺すぞ!」
「へへへ、どうだ? 自分を陥れた奴に、こうされる気分は?」
「……っ!」
 ジュリアスは、怒りに肩を震わせた。三年前の忌わしい記憶が脳裏をかすめる。
 1868年……。サルーンで声を掛けられた。
『ロッキー山脈の中腹に、最近手配書が回り始めた賞金首の一団が潜伏してるんだ。二人で挟み撃ちにして、賞金は山分けにしようぜ』
 他人と組むことを嫌い、一度は断ったジュリアスだったが、彼を慕っていた鍛冶屋の子供が人質に取られ、協力せざるを得なくなった。そして彼は、罠に落ちた。
 ジュリアスを誘い出した男もまた、その一団の一人だったのである。
 彼らの目的は、優秀なバウンティハンターの持つ金だった。
 そして、仲間に引き入れられようとするのを拒んだジュリアスの末路は、惨烈を極めた。
「あの時は、どうしてボスがお前さんにこだわるのか、わかんなかったけどな。結果として、お前はえらく役に立ってるもんなあ。拳銃持てなくたって、この西部で生きる道はいくらでもあるってことだ。頭と、下半身さえ無事ならな」
 そう言うとグレッグは、サルーンでジュリアスに話し掛けた時の表情で笑った。
「お前だけは、絶対に、許さない」
 ジュリアスは、射抜くような呪いの視線をグレッグに向けた。
 素知らぬ顔でグレッグは、ジュリアスの胸をまさぐり、突起を掌で撫でさすった。首筋に舌を這わせ、鎖骨を軽く噛む。
「いつまでそんな目でいられるかな。おい、トニー」
 呼ばれて、トニーもジュリアスの上にのしかかった。両足をしっかりと押さえながら、太腿に頬を擦り寄せ、局部ににじり寄って来る。
 グレッグの手がジュリアスの股間に伸びた。ギュッと握り、皮をゆっくりと上下させる。
「…はっ……」
 一瞬、ジュリアスの口から吐息が漏れた。
 トニーの舌が裏筋をなぞる。柔らかく垂れていた肉の竿は、すぐに雄々しく猛り始めた。
「……くっ、う…」
「へへへ。こっちはやる気マンマンだな」
 グレッグはしっかりと肉茎の根元を掴むと、乱雑に扱き出した。トニーが鼻を鳴らして、膨らんだ亀頭をくわえ込む。唾液があふれて肉にまとわり付き、淫猥な音を立てた。
「あああ……ああ……」
 ジュリアスは頭を左右に振り、喘ぎ始めた。
 それを見て、グレッグも体勢を変え、そそり立ったペニスに顔を近づけた。舌を伸ばしてぺろりと雁首を舐め上げる。
「ひああアッ!」
 トニーの舌は硬く尖り、先端の尿道口を突ついている。同時にグレッグの舌先が、ねっとりと雁首をねぶる。更に二人の手は、唾液まみれの淫棒と袋を弄んだ。ペニスを玩具にされる恥辱に、ジュリアスは頬を上気させて耐えるしかなかった。
「ん…あ、あっ…、も、もう……」
「もう……、何だよ? 言ってみな」
「……く、くうぅっ」
「今さら意地張ることはねえだろう。さんざんボスに可愛がられてるくせによ」
 ジュリアスは答えなかった。しかし僅かに男根は反応し、硬さを増した。それを、トニーは見逃さなかった。
「どうした? ボスのことでも思い出してんのか?」
「……」
「残念だったな。今回は山越えもあるし、一週間は戻れないって言ってたぜ。いつもだったらその間、体持て余して溜め込むだけだ。よかったな、今日は俺たちにこうして貰えてよ。本当は嬉しいんだろう?」
 グレッグはにたりと笑って、トニーに目で合図をした。
 トニーが上体を起こすのを待って、グレッグはジュリアスの両足を高々と持ち上げた。
「……やめ……!」
 天井を向いた足を更に前に倒し、体を二つ折りにするように、足先を頭の両脇に押し付ける。腰が高く上がり、肛門が真上を向いた姿勢になった。
「ハハハ、丸見えだ」
「ほう。使い込んでる割には、けっこう普通の色だな」
 二人はジュリアスのアヌスをじろじろと覗き込み、口々にそう言って笑った。
「や、やめろ……そこだけは……」
「やめるわけにはいかねえな。俺たちにも味見させろってんだ。お前さん、自分がいつもどんな声出してるか知らねえだろ。部屋の外まで丸聞こえなんだぜ。あれを聞かされるたびにムラムラして、もう辛抱できねえんだよ」
 尻肉を左右に広げ、皺を伸ばす。窄まった穴が生き物のようにうごめく。グレッグはそこに唾を吐きかけ、おもむろに人指し指を突っ込もうとした。
「ヒイィッ!」
 ジュリアスの腰が大きく揺れる。トニーががっちりとそれを支えた。指は僅かしか入らず、皺に爪痕を付けただけだった。
「徹底的にほぐしてやるか。オリーブオイルはないかな」
「あったはずだぜ。持って来てやる」
 グレッグはジュリアスの尻をトニーに譲ると、ベッドから降り、部屋を出て行った。
 トニーは、目の前の淫らな穴を塞ぐように舌を押し当てた。ジュリアスの尻がビクンと震える。それを動かないように押さえつけながら、トニーは舌先をチロチロと動かした。
 ジュリアスが、非難するようにトニーの顔を見上げた。体を折り曲げられた姿勢から、苦しそうに声を絞り出す。
「トッ…トニー……お前は、そんな奴じゃないと……思ってた……のに……」
 トニーは黙って舌を皺に這わせ、中心部分に先端を潜り込ませた。
「あああっ! や…やめ……頼むから……」
 敏感な部分を舌で蹂躙され、ジュリアスは小刻みに震えた。
「白人をこんなふうに犯すのは初めてでな。俺の夢だった。お高く止まった白人が、泣いて許しを乞うのを見るのがな」
「ヤ…ヤンキー(北軍)の部隊に…いたなら…、南軍の白人の兵士を……何人も、殺しただろ……」
「ああ。だが夢は叶わなかったよ。見つけたらその場で撃ち殺してたからな。泣くところも見られなかった」
「Damn Yankee(いまいましいヤンキー)!」
「うるせえ」
 トニーは目の前の穴に、ずぶりと太い指をめり込ませた。
「ひうっ!」
「お前ら南部人が幅をきかせた時代はもう終わったんだよ」
 ぐりぐりと乱雑に指を動かす。ジュリアスは痛みを避けようと、息を吐いて肛門の力を緩めた。それをいいことに、トニーはずぶずぶと指を押し進める。
「う…ああ……あああ……」
「ボスの方がよっぽどわかってるぜ。南部の栄光なんか吹っ飛んじまったことをな。まあさすがに、俺が北軍の兵士だってことがバレたら危ねえだろうから、お前をやったら、ずらかるつもりではいるけどな」
「……く、くうぅ……」
 その時、ドアが開いて、オリーブオイルのボトルを持ったグレッグが入って来た。
「何だよ、また戦争の話かい? 連邦軍の奴はそればっかりだな」
「そう言うなよ、グレッグ。未だに北軍に牙を剥いてるバカ野郎にお仕置きしてやってるだけさ」
「まあ、俺はもうどうでもいいけどさ。ボスの前では戦争の話はできねえよ。あの人も連邦軍を辞めさえしなけりゃ、英雄になれたんだからさ。奥さんの実家がミシシッピだからって、わざわざ南軍の方から出たりするから……あんなに落ちぶれちまってよ。まあ、リー将軍を尊敬してたみたいだから、仕方ねえけどな」
 ボトルのキャップを外し、ジュリアスの秘部にとろとろとオリーブオイルを注ぎながら、グレッグはつまらなそうに溜め息をついた。
 潤滑油を得たトニーの指は、根元まで中に埋め込まれたかと思うと、一気に入り口まで抜かれ、また奥まで侵入して行った。
「はあああ……あああ……」
 たちまち柔らかくほぐれていくジュリアスの菊門は、黒光りする指を難無く飲み込み、しかも徐々に反応を見せ始めた。きつく窄まったかと思うと、観念したように弛んで広がる。内部が収縮し、指を自ら奥へと導くような動きがあった。
「感じてきやがったぞ」
 ほくそ笑みながら、トニーはゆっくりと指をもう一本増やした。中で指を曲げ、ほじくるように内襞をいたぶる。
「ああっ! はっ…はあぁ……」
 思わず甘い声を発してしまいそうになるのを、ジュリアスは最後の理性で抑えていた。しかし無遠慮に抜き差しされる二本の指には適わず、次第に腰が動き出す。
 グレッグとトニーの二人は、飽きもせずに従軍中の話に花を咲かせた。その間も、ジュリアスの排泄器官を玩具として使うため、指を休めることはない。まるで綿繰り機を使って綿花から種を取り出す作業をしているかのようだった。物のように扱われ、ジュリアスの自尊心は傷つけられた。嘲られ、罵られる方がまだましだった。
「そうそう、ボスのことで面白い話があるんだよ」
 服を脱ぎ捨て、全裸になったグレッグが思い出したように言った。
 

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