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Violated Mind

 

 薄暗い部屋の中に、声を噛み殺した嗚咽が響いていた。
 どれだけ泣いても、涙は枯れてしまうことはなかった。体中の水分が涙となって流れ出てしまうのではないかと、彼は思った。
「うっ……ぐっ、ぐうぅ……っく、くそっ……くそっ!」
 金髪を振り乱し、ジュリアスはベッドに頭を打ちつけた。
 汚れたシーツの上には、たった一枚の便箋があった。ジュリアスはその文面を一度しか読むことができなかった。
『貴方の弟のユリアンが急死しました』
 母の文字が震えていた。おそらく彼女は、泣き叫ぶ末娘を片手で抱き締めながら、悲しみを堪えてこの手紙を書いたのだろう。
 ジュリアスは床に座ったまま、ベッドの淵にもたれ、がっくりと項垂れた。
 折り曲げた両脚に、ポタポタと涙が滴り落ちる。目を真っ赤に泣き腫らしても、部屋中を涙の海に沈めたとしても、彼の嘆きは治まらないだろう。
「ごめん……俺のせいなんだ……俺の……」
 ジュリアスはこの手紙が届くより前に、そのことを知っていた。
 便箋には、こうも書いてあった。
『彼は貴方に黙って、貴方に会いに行ったの。驚かせようと思ったんでしょうね……。でも旅の途中、強盗に襲われて撃たれました。途中まで貴方に迎えに来てもらっていれば、こんなことには……』
 彼は、それが偽りであることも知っている。ユリアンは強盗に襲われたのではないことを。コロラドに辿りつく前に殺されたわけではないことを。
 ジョージアの母と妹には、嘘が伝えられている。真実は違う。
 弟は、自分の目の前で死んだのだ。
 ジュリアスは悲痛の面持ちで、はらはらと涙を零した。
「ユリアン……ううっ……ユリ…アン……う、う……くうううっ……」
 その事件が起こったのは、僅か十日前のことだった。

    *

 

Violated Mind-02へ続く(全6頁)