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 デッドマンはジュリアスを抱いていた腕をほどくと、起き上がり、彼の足首を掴んで持ち上げた。下半身を密着させて、挿入の体勢を取る。
 ベッドの下からオリーブオイルを取り、ペニスに使うと二、三度しごいた。
 デッドマンの股間には、これまで見たこともないほど巨大な凶根がそそり立っていた。てらてらと油で光り、鈴口から雫を垂れ流している。
 ジュリアスは生唾を飲み込み、その勃起を見つめた。
 秘肛に硬いものがあてがわれた。ジュリアスは意識的に筋肉を弛緩させた。
 めりめりと内壁が押し広げられる。慣れているとは言え、この瞬間はいつも苦しいものだった。しかし、今日は違った。
「んううう……あっ、はあああっ! あああーっ!」
 ジュリアスの肛門は、呆れるほどあっさりとデッドマンを受け入れた。
 狭い内部を雁首が擦り上げる。粘膜を深くえぐるように、デッドマンは腰を動かした。
「ああううっ! いいっ! いいっ……もっと……ああ……もっと!」
 金色の髪を振り乱し、ジュリアスは喘いだ。
 焦らし抜かれて、体の奥でくすぶっていた官能が、一気に爆発したかのようだった。
 不安はどこにもなかった。憎悪が追いかけてこない快楽など、初めてだった。
 デッドマンに蹂躙される度に、ジュリアスは自分の体を怨んだ。心と裏腹に反応してしまうことを呪い、憎んだ。今日は、それがなかった。安心して、快感に身を任せることができた。
 デッドマンの本心はわからない。しかしジュリアスは、味わったことのない至福感に酔っていた。
 今日、自分は犯されているのではなく、抱かれているのだと……。
 その思いが、ジュリアスの心を解き放っていた。
「ああっ! んああっ! あああっ、あーっ!」
 切なそうに目を細め、ジュリアスは高ぶっていった。
 陰毛に縁取られた入り口が、ヒクヒクとうごめいた。根元を締め付けられて、デッドマンは眉を寄せた。細い腰を抱えて揺さぶりながら、一物を奥まで差し入れ、突き上げる。括約筋が収縮し、精を搾り取ろうと蠕動する。
 抽送の度、肉棒を包み込む内壁がめくり返され、穴から顔を覗かせた。淫らな光景だった。
「あううっ! はっ、はああっ、くはああっ! ああっ! ああああーっ!」
 ジュリアスは体を弓なりに反らせ、自ら腰を振った。熱い息を吐き出しながら、恍惚感に身を委ねる。
 額から滲んだ汗が、流れて目に入った。ジュリアスは頭を左右に振り、汗を飛ばそうとした。
 その時、デッドマンの手がジュリアスの汗を拭った。長い前髪をかき上げ、熱い指で頬をなぞる。
 彼の肌の熱さを感じて、ジュリアスは安堵したように瞳を閉じた。
「ボス……気持ちいい……」
「……そうか」
 デッドマンはその手をジュリアスの股間に伸ばした。大きくはりつめた亀頭を掌で包み込み、撫でるように弄ぶ。
「ああっ……もう、すぐ、出るっ……」
 表情を歪ませて、ジュリアスは両足を上下させた。デッドマンはその足首をしっかりと掴むと、白い尻を上に持ち上げた。
 そして角度を変えて、前立腺を刺激するように強く貫く。
「アハアアアッ!!」
 ジュリアスの腰がガクガクと震えた。大きな悦楽が一点に集まる。下半身がすべて溶け落ちてしまいそうだった。
 デッドマンの動きがジュリアスを狂わせた。強烈な射精欲が押し寄せてくる。
 ジュリアスは焦点の定まらない瞳で天井を見つめた。だらしなく口を開け、惚けたように愉悦の波の上を漂っている。
「あああああ〜〜〜っ、んあっ……はああ……ん、うああ……っ、くああ……」
 ピストンを続けながらデッドマンは、ゆっくりとジュリアスのペニスをしごいた。それは、限界が近付いていることがすぐにわかるほど、膨張しきっていた。
「ハアアアッ! もっ…もう……もう、あああっ! アアアアーッ!」
 追いつめられたジュリアスは、大きく頭を振って、のたうち回った。
 乱れるジュリアスの姿に興奮を煽られ、デッドマンは激しく腰を打ち付けた。
 律動を速める。尻穴の中を掻き回すように腰を動かす。生き物のようにうごめく肛門が、射精を促すように幾度も肉刀を絞り上げた。
「……くっ」
「もう…もうっ、死んでも……いいっ! あはあっ! アアアアアーーッ!!」
 ジュリアスは男根を勢いよく脈打たせた。大量の精液が一気に噴出し、腹の上に迸った。
 デッドマンもまた、ジュリアスの中に欲望を解き放っていた。
「はっ…はあっ、はあっ……ぐっ、ゲホッ、ゲホッ!」
 息を整えようとしたジュリアスは、激しい咳に見舞われた。何度目かの喀血が彼を苦しめた。
 デッドマンは結合を解くと、ジュリアスの体を抱き締めた。裸の胸が密着し、互いの鼓動を伝え合う。
「ボ…ボス、俺…を、外へ放り出した方が、いい。もう……俺は誰の役にも……立てない……。家族の役にも……あんたの、役にも……」
「……」
「俺の役目はもう……終わったから……」
 口元を血で汚したまま、力なくジュリアスは言った。
 デッドマンの返事はなかった。静寂の中でジュリアスは、意識が眠りの中に落ちていくのを感じた。
 最期の瞬間も、きっとこんなふうに落ちていくのだろう。そう思った。


 その晩、ある会議が行われたことを、ジュリアスは知らなかった。
「駅馬車で情報屋が報告を持って来た。どうやらアトランタから列車に乗ったようだ」
 機械的にそう告げたのは、デッドマンの片腕とも言える男、サミュエル・L・プラムリーだった。
 九年前の戦争の時はもちろん、その前のメキシコとの戦争の際も彼を支えている。年齢はデッドマンより上だったが、大佐であった彼には忠誠を誓っている。
「列車だと。どこへ行くつもりだ?」
 デッドマンは尋ねた。サミュエルは口籠った。
 親友のその表情を見て、デッドマンは事情を悟った。
 ユリアン・J・マックモーディは、兄を迎えにコロラドへ来るつもりなのだ。
 デッドマンは口の端を釣り上げて笑った。
「好都合だ。ジョージアまで出向く手間が省けたぜ」
「ボス。貴方という人は……」
「ジュリアスに死なれちゃ困る。誰が奴の代わりができる? あいつにはまだまだ生きてもらう。そのために必要なのは、憎しみと復讐心だ」
「そんなことをしても、ジュリアスはもう永くないんだぞ」
「俺の決めたことに口出しするな、サム。他にどんな方法があるっていうんだ?」
「リチャード、考え直してくれ。ジュリアスが肺病だとわかった今、無理に服従させることはないはずだ」
 サミュエルは食い下がった。しかしデッドマンはそれ以上、彼と話を続けようとはしなかった。
「スコットに出発の支度をさせてくれ。奴の弟に張り付かせろ。そして、ちゃんと伝えておけ。隙があれば、いつ殺しても構わんとな」
「リチャード!」
 サミュエルの声を背中で受けながら、デッドマンは部屋を出ていった。
 憎悪でしか他者と繋がることができない男の、悲しげな後ろ姿だった。
 サミュエルは、黙ってコーヒーを飲み干した。
 カップを手にしたスチュアートが、その横に座った。
「ジュリアスは、大佐を愛しているよ。そんなひどいことをしなくても、大佐のために尽くすはずだ。それなのに」
「それを……信じられないんだ。あの人は。不確かなものは、何一つ…」
 サミュエルは深く溜め息をつき、がっくりとうなだれた。

(了)