Case13
男はオフィスによくあるような、ひじ掛け椅子に座らされていた。両腕はそれぞれひじ掛けの上に乗せた状態で、上半身は背もたれに寄り掛かった体勢で、拘束されていた。ロープを用いて、椅子にぐるぐると巻き付けるような方法だった。脚は膝を閉じたポーズのまま、椅子の脚に括りつけられている。
「何を聞き出そうってんだよ?」
煙草を吸いながら男を見下ろしている青年に、男はくってかかった。青年は灰を地下室の床に落とした。
「さあ? 俺は頼まれたことを実行するだけさ」
そう言うと、青年はライダーズジャケットのファスナーポケットを開け、中から銀色のペンチを取り出した。
そして黙って男に近付き、くわえ煙草のまま、男の右手の甲を上から押さえ付ける。
「や、やめろっ!」
危険を察知した男が、じたばたと慌てた。青年は男の顔をちらりと見ると、スチールの入ったブーツの爪先で、男の向こうずねを蹴った。
「アオオオッ」
脚の骨に響いた衝撃に男は呻いた。しかしその直後、それを上回る激痛が男を襲った。
「ギャアァッ!!」
右手の人指し指の爪がペンチで挟まれ、力ずくで前に引かれた。男の絶叫が部屋に響く。男はうなり声を上げながら、首をのけぞらせて喘いだ。
その様子にはまったく構わずに、青年は隣の中指へとペンチを移動させた。
「案外、簡単に剥がせるんだな。知らなかったよ」
「や、やめてくれえ…」
男は涙を流しながら、青年を見上げて頭を下げた。青年はそれをまったく無視して、中指の爪の先をペンチで挟み込んだ。そして今度はやや上に角度をつけて、めりめりとペンチで力を加えた。
「許してくれえっ! お願いだ、お願い……」
爪が少しずつ、指から剥がされていく。男は全身を痙攣させて喚いた。
「ヒギャァァァーッ!!!」
青年は、男の生爪を根元から剥ぎ取ると、ペンチをポケットに戻した。
「ア、アア、ア……ヒイ、ヒイイィ……」
男は椅子に腰掛けたまま、汗だくになって悶えていた。
その時、地下室に通じる階段を降りて来る足音が聞こえた。
「さて、尋問タイムのようだな。また呼ばれたら来ることにするよ。じゃーな」
青年はそう言うと、小さく笑って火のついた煙草を口から外した。そして、爪のなくなった二本の指の先端に、容赦なく押し付けた。
「アギャッ、あ、熱い熱い、熱いぃっ、ヒギィィィッ!」
男の血で消えた煙草を、なおも執拗に揉み消すと、青年は笑いながら地下室を出て行った。
(了)
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