Case12

 黒光りする警棒で、拷問執行人は左側から、男の首筋を殴りつけた。
「ウグェッ!!!」
 一瞬、呼吸ができなくなった後、男は絞り出したような声で唸った。
 立て続けに、青年は警棒を男の鎖骨に叩き落とす。骨がきしむ音がして、振動が口の中に伝わった。脳天まで響く痛みに、ガクガクと顎が震えた。
 若い青年はストラップに手首を通し、黒い警棒のグリップを握っている。警棒の全長は40センチ程もあった。
「ア、アウウ、ウ」
 男は呻いた。頭で言葉を作成するのが困難だった。
「さあ、俺がキレないうちに終わらせたほうが身のためだぜ」
 警棒を男の右肩の上に乗せ、青年は空いている右手で前髪を掻きあげた。
 笑いながら警棒をピタピタと男の頬に当てている。そして、なぞるように先を動かし、
「ぶん殴りすぎて、鼓膜破っちまったこともあんだよ、俺。気をつけねーとさ」
と、言った。同時に、男のこめかみにグリップを押し付けた。右手で男の顎を持ち上げ、ゆっくりと顔を寄せる。
「ウウッ……」
「顔は大事だろ? 視力も鼻骨も大事だよなぁ」
「ウウ、や、やめて…」
 男は呟いた。その言葉を待たずに、青年は手を離し、警棒を思いきり頭上から打ち下ろした。
「グアアっ!」
 男は吐くような悲鳴を上げた。
 そんな男の声など聞こえないかのように、拷問執行人は頭と顔を、ところ構わず殴りつける。みるみるうちに、顔の各所が腫れ上がり、赤黒い痣が点在していく。
「ウッ! ウワッ! ァ、ギャ! ギャアアッ!!」
「ははは。ずいぶん顔が膨れ上がってきたな、おい」
 何十発もの殴打が済むと、青年はもう一度、右手で男の顎をつかみ上げ、今度は口を開けさせた。
「ア、アガガガ」
 そしてその口の中に、警棒の先を突っ込んだ。乱暴に喉の奥まで長い警棒を潜り込ませる。
「言い忘れてたんだが……」
 男の内部で、警棒の先端がつかえて止まったことを確認すると、青年は勿体ぶってそう言った。
 その時、喉の突き当たりに、微かに二本の突起物を男は感じた。
「ア、アガッ、グェッ」
「これは実はスタンガンでな」
 青年は、ニヤリと笑ってスイッチを入れた。
 次の瞬間、地獄の底から響いたような悲鳴が、地下室に大きくこだました。
 天井から両腕を吊るされていた男の体は、前後左右にぶんぶんと揺れ、やがて、カクッと姿勢が下に下がった。
「ん? 肩の関節が外れたかな」
 青年は子供のように笑いながら、男の口から警棒型スタンガンを引き抜いた。
 同時に、折れた前歯が床にコロリと転がり落ちた。
(了)

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