Case09

 暗い部屋の片隅に置かれたプラスチックの植木鉢が、男は気になっていた。が、そんなものを気にしている暇はなかった。
 青年の手に持たれたものを見上げて、男は恐怖に戦いた。
「ひいいっ、やめて、切らないでっ」
「これじゃチンポは切れねーよ。切るなら植木バサミとか使うさ」
「だ、だだだ、だってそれ……ヒイイッ、や、やめて」
「細かい作業には向いてるよな」
 青年は、線材切断加工用のニッパーを男のペニスに近付けた。そして一方の刃先を静かに尿道口に差し込む。
「ヒイイッ! やめてーっ、痛いよっ!」
「俺はさ。プラモとか作るようなやつでいいって言ったんだよ」
「ううう、うう……」
「でも、これ買ってこられたんだからしようがねーだろ。聞いたら……」
 ゆっくりと刃先を男の亀頭に押し当てる。柔らかく萎えたペニスの先に、尖った先端が食い込んでいく。
「2ミリ近い鉄線も切れるんだってよ」
 ニッパーの鋭い刃が、ザクッと亀頭に穴を開けた。
「グギャアアアアッ!! ウワァーッ、ンギアアッ!」
「さあ、チョキッといっちまおうか。ションベンしやすくなるぜ。穴がでかくなってよ」
「ウアアアアッ!!、いやだ、いやだ、イヤーッ!!」
「俺が聞きてェのは、てめーの悲鳴じゃねーんだ。わかってんだろ」
「いやだーっ! いやいやいや、いや、いやーッ! イヤーッ!」
「うるせーな。イヤ以外のこと喋れねーのかよっ!」
 今にも泡を吹きそうな男の顔を見下ろしながら、青年はグリップをギュッと握った。
「ギャアアアッ!」
 ジョキンと音がして、刃の先が肉の中で触れ合う手ごたえがあり、亀頭に空けられた穴と尿道が繋がったのがわかった。
「ウォオアアッ!」
 青年は、閉じたままのニッパーを思いきり引き抜いた。同時に男根の先端から、どくどくと血があふれ出す。
「やった。肉片取れた」
 青年は嬉しそうに笑って、ねっとりと赤く染まったニッパーを手に、部屋の隅へと歩いていった。
「うううっ、ま、待って……何でも喋るから、手当てしてくれ……。た、頼むよ」
 青年はちらりと男を振り返ると、無表情で前に向き直り、聞こえないふりをした。
 そして、ニッパーの先端に僅かにこびりついた皮下組織を指でつまむと、植木鉢の上からぽとりと落とす。
 その瞬間、遠目には暗赤色に見える植物がぐねぐねと動いた。5ミリ程度の平らな葉の表面に密生した突起が、玉のような透明の粘液を吐き出していた。
「枯れちまう前に、もっとエサやりてーなぁ…」
 そう呟くと、青年はモウセンゴケの側から離れ、再び哀れな男のほうへ歩き始めた。
(了)

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