Case06

 男は両手を後ろに回し、柱に縛り付けられていた。
 束ねられた手首の先、10本の指が、何か掴むものを探すようにピクピクとうごめく。
「ゴホッ! ウ…ゴホッ、ゴホッ!」
 青年の手が離れた直後、男はひどくむせた。
 その鼻先に煙草の煙が吹き付けられる。それを吸い込み、男はなおも激しく咳き込んだ。
「喘息とかの経験なんて、ねーだろ」
 煙草を摘んで口から外し、拷問執行人は尋ねた。男は力なく首を前に折り曲げる。
「俺、あるんだよ。急性肺炎。辛いぜ。息できねーってのはよ。……でも」
 再び青年は煙草をくわえ、片手を男の首に押し当てた。
「マゾはこれが好きな奴が多いんだよなあ」
「グウ…ググ…」
 ゆっくりとした速度で、掌が気管を圧迫してくる。時折、焦らすように指先に力が込められては緩められる。
 その、フィンガーカットの革手袋から突き出た指は、氷のように冷たかった。
 再び、青年が手を離した。
「ゲホッ、ゴホッ、も、もう、やめ…、ゲホッゲホッ!」
「天国だろ?」
 男は首を横に振った。
「よくなるぜ。生きてここから出られたら、試してみるといい。イク時にさ」
 言いながら、青年は両手を、男の首の両側からあてがった。
「グウゥッ!」
 親指が、喉仏をぐりぐりと弄ぶ。
 今までよりも強い力で締め付けられ、男は恐怖に目を見開いた。
 窓のない地下室が、突然日が射したように明るくなったように感じられた。
「わ、わかっ…た、全、部…、しゃべ、る、か、ら……」
 男はやっとの思いで言葉を絞り出し、体を痙攣させて哀願した。同時に、ズボンの中で一瞬膨張したペニスが、だらしなく小便を噴出させる。
 青年の、煙草をくわえた唇の端から、満足げに煙が流れ出した。
 それが、男がこの部屋で見た最後の映像だった。
(了)

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