Case03
「もう夏も終わりだな……」
冷房のききすぎた拷問部屋で、拷問執行人の青年は呟いた。
目の前では、椅子に腰掛けたまま縛り付けられた男が、布の猿轡を唾液で汚している。
「喋る気になったら、どうにかして教えろよな。何言ってるかわかんねーからさ」
そう言うと、青年は吸いかけの煙草を灰皿に転がし、テーブルの上からビニール袋を取った。
袋の中には、黒と茶色のゴミのようなものが詰められているようだった。
「夏の終わりの風物詩ってな。そこらへんで拾ってきたんだけど」
青年は、ビニール袋を男の鼻先につきつけた。
「このへん、コウモリがいるみたいだな。残骸が多くてさ。でも……」
「……ウッ、ウッ」
「どうやら羽根はマズいみたいだぜ。ほら、羽根ばっかりこんなに」
ビニール袋に突っ込んだ手が、セミの死骸を何匹か取り出した。
男は激しく頭を振った。
「ンウウッ、ウウッ」
「ドイツ生まれなんでね。廃物利用は得意なんだ」
青年は、男の頭を片手で押さえ付けた。
「ンォーッ、フウゥーーッ!」
「どうだ、喋ってみるか?」
「ウッウッ、ムォォ、グゥ」
「わかんねーなぁ」
青年は、セミの羽根を男の耳の穴に突っ込んだ。
「ンウォォォッ!」
「安心しな。鼓膜まで傷付けやしねーよ」
革手袋をはめた手が、死骸を握り潰す。掌の上で細かく分解したそれを、青年はゆっくりと男の耳許に持っていった。
「両耳で一匹分全部入るかな」
青年は、破損した羽根で、男の耳たぶを撫でた。
そしてそのまま、耳の中に少しずつ、押し込んでいく。作業のように。
カサカサと渇いた大きな音が、男の脳に直接響き渡った。
男は半狂乱になって、頭を振ろうとした。が、しっかりと押さえ付けられていて、動かすこともできない。
「ヒゥーッ! フーッ! ウゥゥーッ!!!」
「なんだって? わかんねーよ」
「……………」
「ん? どうした?」
急に無口になった男が失神したのを確認すると、青年はつまらなそうに舌打ちした。
「生きたまま入れないだけでも感謝してほしかったけどな」
そう言うと、彼はビニール袋を男の膝の上に置き、煙草をくわえて火を点けた。
その時、一匹だけ生きていたセミが、死骸の中でもぞもぞと飛ぶ準備をしていた。
(了)
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