「死ぬっ! 死ぬウウウウッ!! グギャアアアアーーーーーッ!!」
「まだ続けるか? 去勢するしかなくなるぜ」
「い、言います……全部、アアアアアアア……ッ!」
拷問官は、棒をピストンする手を止め、ゆっくりと引き抜いた。
「自爆テロは……僕が、やるはずだった……ことなんです……」
囚人は、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
拷問官は補佐官に命じて、囚人の戒めを解いた。
「同棲している彼と僕は……同じ地区出身の幼馴染みでした……でも、無差別テロに巻き込まれて……離れ離れになっていたんです……。僕は、生まれた地区と異なる宗派の家族に拾われ、育てられました……先日の自爆テロの現場で会っていたのは……年は近いですが、僕の養父です……」
「当然、肉体関係はあったんだな?」
「……思い出したく……ないことが、いろいろ……あります。僕はまだ子供で……」
「それは後で聞こう。……幼馴染みと再会したのは?」
「3年前です…。僕は彼を追って、生まれ育った地区へ戻りましたが……養父から逃げ切れるはずもなく……スパイとして活動することを余儀なくされました……言うことを聞かないと、彼氏を殺すと脅されて……」
拷問室の扉が開き、担架が運び込まれた。拷問官がそれを手で制する。
「……続けて構わない。最後まで話せ」
「でも、とうとう僕の正体がバレて……僕は彼に問い詰められ、逃げ出しました……だから、死のうと思って……養父に頼んだんです。実行犯にさせてくれ、と……それなのに……」
「さっき届いた報告書によると、シャヒド・ベルトには細工がしてあったらしい。外そうとすると、導火線が接触して爆発するように」
「あの日、僕はいつ養父と別れたのか……覚えていないんです。店で最後の食事をしている時に、不意に意識がなくなって……気がついたら、遠く離れたところで一人でいたんです……」
「そして、養父とやらは爆死していたということだな」
「これで……全部です。本当に、これ以上は知らないんです……」
「たったこれだけのことを、なぜ黙秘しようとした? お前に罪はない。それなのに、なぜ耐えた?」
「それは……」
「お前は心のどこかでわかっていた。食事に薬を仕込まれたのはなぜなのか。お前が巻くはずだったベルトを、なぜ養父が巻いて死んだのか。誰が、それをやったのか……ということを」
「……」
「さっき、お前の同棲相手がすべて自供したそうだ。お前を助けるため、あの日、お前の後をつけたと……な」
「……そんな……」
囚人は、がっくりと肩を落とした。
「仲間と一緒に料理人を買収し、一服持って……眠っているお前を遠くへ運び、もう一人は別の場所へ運んでベルトを巻いた。そこが、男の墓場となったわけだ」
「彼が……僕を助けるために……どうして……こんな僕のために……」
「詳しい話は、退院したら本人に聞くんだな」
「えっ? か、彼は処分されないんですか?」
慌てて囚人は顔を上げた。
「なぜその必要が? 紛争は終結した。お前の養父と一緒に、手配中だった宗教的支配者の隠れ家が吹っ飛んだ。当然、軍によって逮捕されたよ。裁判の末、死刑が執行されるだろう」
「それじゃあ……」
「お前たち二人は英雄になるだろうな」
「ああ……神よ…!」
つい先ほどまで囚人だった青年は、目を閉じて天を仰ぎ、胸の前で図形を画いた。
(了)
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