拷問官は、制服のポケットから小型の器具を取り出した。
それは、赤い鉄製の万力だった。
万力を片手に拷問官は、囚人を拘束している鉄柱の背後に回った。
囚人は、鉄柱を背で抱えるように両腕を後ろに回されている。
両手首がロープで束ねられ、鉄柱に括りつけられていた。
拷問官は囚人の右手首を捻り上げ、親指を万力で挟んだ。
「……っ!」
囚人は息を飲んだ。
「何か言いたくなったら、遠慮なく言え」
拷問官の声が、背後から響いた。
次の瞬間、囚人は思わず声を上げた。
「うあっ!」
万力に挟まれた親指が、ギュッとネジで締め付けられた。
「…はあぁ……」
「予告してやろうか。何も言わないなら、このまま骨を砕く」
「そ、そんな」
再び、ネジが回された。
「あああっ! い、痛いっ!」
ピシッと音がして、爪が縦に割れた。
それでもなお、囚人の親指は押し潰されていく。
頭を左右に振って、囚人は痛みを堪えた。
拷問官の動きは囚人には見えない。
彼の目の前には、広々とした空間が広がるのみである。
拷問官の顔を見て許しを乞うことも、囚人には許されなかった。
苦しむ囚人を嘲笑うかのように、ネジがギリギリと締め付けられる。
鉄で圧迫された箇所が、紫色に変色を始めた。
「許してください! 僕は、僕は何も知らない!」
「受け取った物を出せと言っている」
「信じてください! 本当に何も……」
再度、ネジが巻かれた。
「あーっ!」
骨が僅かに軋む音がする。皮膚からは血が滲み始めた。
「やめてっ! ああっ、痛いっ! 痛いーっ!!」
囚人は大声で叫んだ。
その声にかき消され、親指の骨が潰れた音は、本人の耳には届かなかった。

続く