拷問官は補佐官に、バケツに水を汲んで来るように命じた。
囚人は俯せで膝を曲げ、床に這いつくばっている。
両手首と両足首はチェーンで括られたままだ。
そんな囚人の眼前に、水がなみなみと張られたバケツが差し出された。
拷問官が顎で合図をすると、すぐさま補佐官が囚人の髪をつかむ。
そして有無を言わさず囚人の顔を、バケツの中へ落とし込んだ。
「あ、ああ」
直前の叫びが水に消えた。
補佐官は囚人の頭を掌で押し付けている。囚人の体がぴくぴくと動いた。
15秒ほどで、囚人の頭はバケツから上げられた。
「ゲホッ、ゲホ…ゲホッ!」
囚人は激しく咳き込んだ。髪から、水が滴り落ちた。
拷問官がその場にしゃがみ、人指し指を囚人の顎の下に這わせた。
「苦しいか」
すぐには答えは返らなかった。囚人は息を整えながら、何度も頷いた。
「助けて……し、死にたくない」
「殺すつもりはない。まあ、死ぬよりも辛いだろうがな」
拷問官は、補佐官の顔を見上げると、親指を立てて床に向けた。
再び補佐官は、囚人の頭をバケツの中へ突っ込む。
「ああ、ぐっ、げ…」
今度は前よりも長い時間、囚人は水中に頭を押し込まれたままでいた。
次第に身がくねり、縛られた手首の先で、十本の指が何かをつかむようにうごめいた。
やがて、拷問官の合図で、囚人は水から引き上げられた。
「うっ、ゲホッ、ゴホゴホッ、アッ、アッ、ハ、ハアッ」
乱れた呼吸のまま、再び乱暴に頭を沈められた。
ゴボッと音がして、水面に気泡が上がった。
そのまま何度も囚人は、水と外を行き来させられた。
息をつく間もなく水に顔を浸されるので、何度も水を飲み込んだようだった。
拷問官は立ち上がり、水しぶきの上がるバケツのそばを少し離れた。
「グ、グェッ、オエ、オエエッ!」
囚人は水を吐きながら、激しく頭を振った。
「どうだ。話す気になったか」
拷問官が、哀れな囚人を見下ろしながら尋ねた。
しかし囚人は水を吐き出すのに必死だった。喉がごろごろと鳴った。
拷問官は足を上げると、靴底を囚人の後頭部に乗せた。
そのまま一気に踏みつけ、強引に囚人の頭を水の中へ沈めた。
額と鼻先が、バケツの底に激しく打ち付けられた。
「アガッ、オゴゴ、ゲフッ…」
囚人は暴れながら水中で声を発していたが、やがて気絶したのか大人しくなった。
拷問官が足を離した。補佐官が囚人の髪をつかんで持ち上げる。
拷問官は煙草に火をつけながら、水に濡れたブーツを補佐官に磨かせた。

続く