・Stage5.Ball
「ア、ア、アア、アアア……」
男はピクピクと手足の指先を動かした。
熱湯が降り注いだ箇所が、真っ赤に腫れ上がっている。太腿も腹も胸も、ヒリヒリとした痛みに支配されていた。
男がこの地下室に連れて来られてから、まだ一時間も経っていない。
しかし男はもう、何日もここに監禁されているような気分になっていた。
拷問執行人が壁に寄り掛かり、煙草を吸っている。この、女性のような顔をした混血の青年が、今夜の男の運命を握っているのだ。
「うっかりしてたな……。先にサオの方ダメにしちまって。最後の射精ぐらいさせてやるんだった」
独り言のように呟くと、青年はくわえ煙草のまま、男に接近してきた。
「……」
男はもう、暴言どころか、命乞いをする気力も残ってはいなかった。
この地獄のような地下室から、一秒でも早く出たいとは思っていたが、半分は諦めていた。
「殺せ……。殺せ……」
とにかく楽になりたい一心で、男はうわ言のように呟き続けた。
青年は煙草をくわえたまま、男の惨めな姿を見下ろした。
「楽になりたいか?」
「……殺せ……。殺せ……」
「俺は殺しはやらない。楽にしてやる方法は、拷問を終了するしかない」
「……楽にしてくれ……。ひと思いに殺してくれ……」
「まあ、ここまでやっちまったら、多分そういうことになるだろうな。それは、俺が決めることじゃないけど」
美貌の青年は、火がついたままの煙草を床に吐き出した。
そして、先程まで陰茎だった部分に突き立てられたバタフライナイフを引き抜く。
「くうう……」
男は僅かに呻いただけだった。襲い来る火傷の苦痛が、小さな痛みを凌駕しているのだろう。
しかしその直後、男の瞳に再び光が宿った。青年が、男の睾丸を下から持ち上げたのだ。
「ギャアアッ! やめてくれッ! ヤメテクレッ! 潰さないでっ!」
「もうチンポねーんだぜ? タマだけあっても意味ねーだろ」
「それでもイヤだあっ! 潰されたら死んじまうッ!」
「ん? さっきと言ってることが違うな。死にたいんじゃなかったのか?」
「それとこれとは別だァッ!」
「クククッ。面白い奴」
拷問執行人は目を細めて笑うと、すでに原型を留めていないペニスの裏筋に刃先を突き刺した。そしてそのまま一気に陰嚢まで、スーッと刃を滑らせる。
「ヒギャハアアアッ! アーッ! アガーッ!」
真っ赤な血液が、ナイフの通った道の内側からあふれ始めた。ドクドクと脈打つように、睾丸を持った青年の手を染めて行く。
「ギャアアアッ! 痛いっ! さ、触るなっ! やめてくれえッ!」
「赤と白。美的な組み合わせだ」
赤がしたたる裂け目に指を突っ込む。
「ヒギーーーッ! ゲ、ゲフアアアアッ! グ、グウゥッ、グオアアアア~~~~ッ!!」
緋色の液体の中に白い肉袋が浮かんでいた。青年はその白く丸いものを一つ、摘んだ。
「アアアアアアアッ! クヒャアアアアアッ! や、やめろーっ!」
「フフ、この白いところを剥いてやると……」
拷問執行人は陰嚢を掌で支え、真っ白な膜をナイフの先端で突いた。
「アガアアア……や、やめろぉ~~、やめろおぉ~~~~」
「待ってろよ。すぐに出してやるから」
刃先を器用に動かし、白色の膜に数センチ、切り込みを入れる。
そして膜の中に指を差し入れ、中に包まれていた睾丸を摘まみ上げた。
「ほーら、取り出したぜ。見るか? ……ん?」
掌の上で肉片を転がしながら、青年は男の顔を覗き込んだ。
「静かだと思ったら、気絶してやがったのか。まあいい。すぐに起こしてやる」
青年は摘出した睾丸を床に捨てると、ブーツのソールで踏み付けた。
肉片がグチャッと潰れ、噴き出した血が床を汚した。
そのまま青年はシンクに向かい、革手袋をはめたまま手を洗った。
小さなガスコンロに火を入れる。戸棚の扉を開けて、中から金串を一本取り出す。バーベキューなどに用いる長い串だ。
青年は顔色一つ変えずに、その先端を火であぶり始めた。
串の尖った部分の色が赤く変わって行く。青年は火を消し、金串を持って再び男のところへ戻った。
男はまだ気を失ったままだった。
青年は、男の残っている方の睾丸を、陰嚢の上からギュッと掴んだ。
「う、ううっ! ぐああああっ!」
「目が覚めたか。なあ、これ何だかわかるよな?」
男の視界に、真っ赤に焼けた金串が飛び込んできた。
「ヒーッ!!! や、やめてっ! やめてくださいッ!」
「おっ? どうされるのかわかるのか。少しは学習したようだな」
青年は陰嚢を手で押さえ、金串を振りかざした。
直後、男の睾丸は、金串によって台に固定されることとなった。
「グギャアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!」
男は気も狂わんばかりに絶叫した。
丸い玉の真ん中に、金串がブッスリと刺さっている。あらかじめ火で串をあぶったため、刺した箇所からの出血はほとんどなかった。
「こうしておかないと、摘む時に玉が逃げるんでな」
青年は工具箱の中からペンチを取った。カチカチと金属音を鳴らしながら、男の恐怖を煽る。
「ヒギイィィィイイッ! やめてーッ! きちがいっ! ギヂガイッ!」
固定された睾丸がペンチで挟まれた。
青年はペンチを持つ手に力を込めたり緩めたりして、男の反応を楽しんだ。
「ギャアアアアアッ! ンギャアアーーーーッ!!」
「三十分ぐらいこうやって遊んでもいいんだが」
「ヒイッ! い、嫌らっ! 苦ひまへないれくれッ!」
「いつ潰されるかわかんないのは恐いよな」
「ど、どうせ潰すなら、すぐにやっへくれえぇぇっ」
「ひと思いにやられたいか? そう言いな。頼めよ」
「アアアアアッ、潰ひてくらさいっ! 潰ひてくらさいィッ!」
「Danke! 三十分なんて、俺の方がもたねーよ」
拷問執行人は、グッと力を込めてペンチを握った。
「ぐアー……」
男は口を開けたまま、苦しそうに声を上げた。絶叫ではない。息が抜けるような情けない音だった。
「アアー、マアー、ぐぁー……」
金魚のようにパクパクと口を開け閉めしている。目は大きく見開いたまま、天井を見つめていた。
「クックック、不思議だな。タマ潰す時はみんなそうなる」
青年は口の端を吊り上げた。
次の瞬間、ブチャッと玉が潰れた。
体液がそこから流れ出し、ビチャビチャとあたり一面を濡らした。
同時に、申し訳程度に残っている竿の小さな穴から、黄色い小便がプシャッと上がった。
「あーーーーーーーーーーー」
男は放心状態のまま、五十音の一番最初の文字を力なく言い続けていた。
Stage6へ続く